その日は声もなく玄関に何かが崩れ落ちる音が聞こえ、ウトウトとしていた俺を呼び起こした。


駆け寄ると、我慢していたかのように深く呼吸をするユチがいた。

唇の周りを覆うように赤い発疹が見られ、薄い皮はめくれ口紅を剥がれている。

部屋の中まで引きずるように連れていき、纏っていた上着を脱がすと

「これ…………」




……全身が真っ赤に染まっていた……




……聞くまでもなかった。


「アイツ嫌い」

「…………」

「もう来んなよ。触んなよ……」

震える手が、俺の腕を握り締めた。

「舌まで入れてきてさ」

「もういいって」

「アイツぜってえ酔ってなかったし。フリだよフリ」

「うん」

「ホント、マジキモい」

「わかったから」

緩むことなく、怯えた指先が俺に振動を伝えて……




……こわかった……




……そう言ってるみたいで

抱き締めることしかできない俺が、心の底から情けないモノに思えた。


「…………」

「…………」

「……はぁ」

「おさまった?」

「ちょっとね」

「そっか……」

「まだ、こうしててぃい?」

「いいよ」


どれくらいの時間が流れただろうか。

時計の針より、漏れる吐息の熱が耳を伝っては、静かに夜を刻み……




その日、ユチの赤みは自然と引いた。