「俺いってくらあ。」

心の中ではキスしよう。
でもいざ見つめられると緊張する。
「千春~?」
少しかがんで下を向いている私の顔を覗きこんだ幸宏。



よしっ…!



「なあ…」
「ん?」
しかし幸宏はかがむのを辞めてしまった。


でもしなければ…


「何、ちは…」


私は背伸びし、幸宏の頭を私のところに無理矢理持ってきてキスをした。

「…もう私からしないから。」
「大胆。びっくりした。」

幸宏は少し驚きながらも歩いて行った。

その背中に「頑張れ」と小声で言った。









サイレンが鳴る。
エースの高橋君が投げる。
5年連続出場校の相手。
でもなかなか点を入れさせない。
攻撃になった。

何回裏だろう。

『2番、高西幸宏君』

呼ばれてバットを持ち、かまえる。
相手の投げるボールが、2回もボールになった。
ピッチャーの元に行く相手のキャッチャー。
一人バットを持ち、監督のサインを見る。指示を見終わり前を見る。

「千春」

―?

誰かが私を呼んだ気がした。
幸宏の方を向くと、幸宏はこっちを見て笑う。



―頑張れ…。