樹が再びなにか言いたそうに口を開いたとき、ちょうどよく父上が入ってきた。 「ああ樹、ここにいたか。悪いがこれを藤棚がある方へ持っていってくれまいか」 藤棚といえば、憂の部屋が近くにあったな…… 「父上、それなら俺が届けに参りましょう」 有無を言わさず、父の手から書物をにっこりと微笑んで奪い二人を後にした。