平安恋物語

月side


「おい、月。なにをそんなににやけてるんだ?」


横で先ほどから気持ちが悪そうに俺を見ていた樹がとうとう口を開いた。


「……別に」


なるべく素っ気ない態度をとったつもりだったが、そのようには見えないようだ。


「噂の憂姫となにかあったか?」


「うるさいぞ樹。無駄口を叩く暇があるなら手を動かせ」


大量の書物を前に、いつもなら不機嫌丸出しの表情で処理をしている俺も、今日ばかりは頬が緩んでしまう。