平安恋物語

月side


「誰ですか?」


彼女は少し怯えた声音で俺に問いかけてきた。


当たり前か。ここからじゃ何者なのかわからないのだから。


「怖がるな。ただ夜風が心地よく、散歩しているだけだ」


影から姿をあらわせてやる。はっと息を呑む声が聞こえた。


「俺は右京月。お前の名は?」


「あ、憂と申します……」


透き通った声はどこか戸惑ったような、驚きのようなものが含まれていた。


憂……。樹が言っていた女か……。ということは、俺の側室になるのだろう。