よし、聞いてみよう。


俺の横を通り過ぎ、歩いていくあの娘を追いかけて、声をかけた。

「あの、ちょっとすいません。」

あの娘は、びくっとして振り向いた。かなり警戒している。そりゃあそうだ。
「な、なんですか?」
怪訝そうな顔をしている。

「いや、そんなにおびえないで。ちょっと聞きたいことがあって。」
精一杯丁寧に話しかける。といってもこんな夜道に見知らぬ男に声をかけられれば
女の子ならおびえるだろう。

あの娘は少しずつあとずさりしている。
俺はそれをじわじわ追う。
「すいません、急ぐので。」
あの娘は振り返り、走り出した。

俺もつられて走り出した。運動不足といっても俺のほうが速く、すぐに追いついた。手首をつかんだ。

「やめて。なにすんの。」

あの娘は声をあげて、抵抗してきた。

■■駅周辺は繁華街がちかいが、
あの娘の帰宅方向は住宅街に向かう暗い道だ。
民家はなく、小学校や公園などがあるだけで人気はない。

「触らないで。」

憎しみをこめた目つきで俺をみている。力いっぱい俺から逃れようとしている。
「ちょっと、おとなしくして、聞きたいことがあるだけなんだ。」

「はなして、へんたい。」

その娘は俺にひどい言葉を投げかけてきた。

「やめてよ、へんたい。」

声が大きくなってきた。

「へんたい。」

この娘に香水の名前を聞きたかっただけなのに、
こいつはピーピーピーピーうるさいし。俺に対して、へんたい、と。
何様だ。話を聞け。

この娘。いい身体しているな。まだ熟れきっていないが、うまそうだ。
俺の頭の中に黒い、どす黒い何かが入ってきて、それが俺を支配しはじめた。
「はなして、お願い。」

「うるさい、声をあげると殺すぞ。」

俺は低く、どすの聞いた声でその娘の耳元でささやき、片手であの娘ののど下を締め上げた。

「ぐふっ」
その娘は黙った。

「いいから黙ってついてこい。おとなしくしてたら殺しはしないから。」

その娘は、さっきまでの憎しみをこめた強気な目つきではなく、おびえきった目つきで俺をみていた。