パリの恋

ロイは小さくため息をついた。
行きたいと言ったら、迷わず連れていく気だった。
ロイはずっと感じていた。
小夜は自分のことを決して嫌いではないことはわかっていた。しかし、ロイの普通でない身分に距離を感じて、踏み込んではこない。当然、明日日本に帰って終わりにするつもりだから、距離を詰める気などないのだ。

ロイ自身焦れていた。

果たして自分はどこまで彼女を必要としているのか・・・。
このまま日本に帰したくない。しかし、その先どうする?
一時の気分で彼女を無理やり自分のものにして、彼女の人生を狂わせることになったら・・・?
このまま日本に帰って、いい思い出として終わったほうがいいのでは・・・?

答えは出ない。二人ともそれはわかっていた。
距離を縮めたいのに、躊躇している。痛いほど伝わってくる。

レストランを出ると、外は一層冷えていた。
どちらからともなく手を繋いで歩く。
エッフェル塔が見える。ブルー一色のそれは寒空に眩く輝いている。

「綺麗・・・」
小夜はため息と共に呟いた。
繋いだ手が少し震えている。
今隣にいる小夜が明日にはいないのかと思うと、ロイは胸が締め付けられ、思わず手を強く握り締める。
それに反応して小夜がロイを見上げた。

「本当に’マイ・フェア・レディ’のようね」
「ヘップバーン以上に美しいよ」

小夜は、まあ、またそんなこと言ってと笑った。

「あの映画は・・・最後、どうなるんだったかしら」
「イライザの訛りのひどい声を録音機で聴きいているヒギンズをこっそり帰ってきたイライザが見て涙する。イライザが帰ってきたのに気がついたヒギンズは、そっけなくこう言うんだ。『イライザ。ぼくのスリッパはどこ?』」
「スリッパ?」
「大喧嘩した時にイライザがヒギンズにスリッパを投げたんだよ」

小夜はなるほどと頷いた。