「そちらの方は?」
「彼女は・・・パリに来て友達になったんだ。小夜、僕の友達のリサだ」
ロイは儀礼的に紹介した。
小夜はペコリと頭を下げて、簡単な挨拶をした。
リサは、なるほどそういうことねといった風に頷いた。

「あなたも・・・本当に日本人が好きね」

日本人とは一言も言っていないのだが、リサにはすぐわかったようだった。

「君が思っているような関係じゃないよ」

ロイは早くリサの元から離れたかった。この気の強いお嬢様は何を言うかわかったものではない。

「・・・私にはわからないわ。日本人の女の子なんて、世界で一番魅力がないと思うけど。無宗教だし、愛国心もなければ教養もないし、礼儀もなってないわ。アメリカの首都がニューヨークだなんて平気な顔で言うのよ?パリのブティックや、ウィーンのザッハにスニーカーとジーンズで入るような礼儀知らずよ。信じられないわ」

リサはわざと小夜にわかりやすいようにゆっくりと話した。

「リサ、やめないか」
「ああ、一ついい所があるわね。男性にとってだけど。すぐ’ride’させてくれることね」
「リサ!いい加減にしろ!それ以上言ったら君を軽蔑する」
ロイは怒りを露にしてリサに詰め寄った。
リサは左の眉をあげ、フンと鼻を鳴らした。

「私はあなたと喧嘩するためにパリに来たんじゃないわ。どいてちょうだい。日本人の近くにいると気分が悪くなるわ」

リサはロイを押しのけて立ち去ろうとしたが、ピタと立ち止まり、小夜に向き直った。

「ロイは優しいから、勘違いしちゃだめよ。彼は女性に優しくするように『躾られて』るだけ。もったいぶらずにお礼に一晩お相手するぐらいしたらいいわ。もちろん、彼があなたに魅力を感じていればの話だけど」

言いたいことだけ言うと、さっさとホテルを出ていってしまった。
小夜は身動きできず、立ち尽くしていた。
ロイは慌てて小夜に近寄る。