静乃はこの家に妙以外の住人がいるのをみたことがない。



ガラーンとしたこの家をみて、なぜか不安を覚えないのは妙が優しい雰囲気を醸し出しているからだろうか。



静乃はとにかくこの家が好きだった。



「座って。」



優雅な手つきで誘われ、静乃は軽く会釈して正座した。



「用は何ですか?」


「はい。
もう妙さんはお達しのことを母様から聞いていますよね?」


「どちらか一派全滅するまで終わらないんでしたよね?」



静乃は頷いた。



「力を貸してもらえますか?
組の仲間を逃がしたいんです。」


「勿論です。
それが静乃の用ですか?」


「はい。」



静乃が頷くと妙は少し怖い顔をした。



「それだけじゃないでしょう?」


「え?」


「まだ人には言えない悩みがあるんでしょう?」



労わるような笑みに、静乃はすべて話してしまおうと思った。