海鳥の戯(たわむ)れるベランダで詩音のことを思った。

闇が深ければ深いほど暁(あかつき)は近い。

人生、どんな深い闇の向こうにも幸福は必ず存在するんだな。

勝つとわかっているときだけ戦うのであれば、猿でも歴史はつくる。

腐った精神風土と戦うのを僕に教えたのは他でもない、

サークルや省庁であんなに輝いていた詩音なのだ。

一緒にこの景色を君と見たかった。

でも、詩音、輝く海をみている僕の隣で君の息づかいが、

白く穏やかに砕(くだ)ける波音のようにはっきり聞こえるよ。

いつも心の奥にいてくれて本当にありがとう。

君の写真をビンに入れて、この生に満ちた楽園のエメラルドグリーンの海に流そう。

熱帯魚が戯れる白い珊瑚(さんご)が詩音の遺骨のようだった。

珊瑚は僕たちの深いため息をも吸い込んで成長し、楽園を形作っていく。

嵐でなぎ倒された海岸の木々からは新しい芽が勢いよく吹いていた。

詩音、聞こえるかい。

世界は確実に変化しているよ。

世の中の交じり合いは加速し、

君なき世界は寂寞(せきばく)と広がっているようで、

この世はまだ、こんなに未知と希望に溢れている。

君との忘れられない一夜で、

自分をさらけ出す勇気を教えてくれたから、

どんな荒野もきっと生きていける。

僕に相談せず、独り永遠にいってしまったのは、

君の優しさだったんだなって、今なら思えるんだ。

僕は君がきっと望んでいたに違いない世界をもう一度作るよ。

インドの詩人、タゴールはうたっている。


君の呼びかけに、誰も応(こた)えないならば

君よ、我が道を一人いけ

皆が恐れを抱いて沈黙するならば

君よ、開いた心と恐れなき声をもって、ただ真実のみを語れ

暗い嵐の夜に、誰もたいまつに火をつけるものがなく

扉をたたく君に誰一人として応じるものがいなくとも

君よ、失望してはならない

雷が激しくとどろく中で

我が心のたいまつに火をつけ、一人、暗闇の中で火を燃やせ