「おまえが居て良かった……」


「男に抱きつかれても嬉しないわ」



立て看板係のリーダーの男子が晴天に熱いハグ。

鬱陶しそうに大袈裟な動作で顔を逸らした晴天に、クラスメートからどっと笑い声が起きた。



机を端っこに寄せて出来た空間に置かれた立て看板に綺麗に描かれた絵。




それは紛れもなく晴天の手で描かれたものだ。



クラスメートとじゃれあう晴天に、砂浜で海を見つめていた顔を思い出す。



鉛筆を持ったまま動かない左手。
進まないスケッチブックのページ。



「じゃあ、塗りに入るかから指示よろしく。晴天センセ」


「よし。チャキチャキ働けよ」



ペンキや刷毛を用意し始めるクラスメートに混ざって、楽しそうに晴天は筆で縁取りをしていく。



あのとき海で見た顔は、わたしの取り越し苦労だったのかもしれない。



だって晴天は、あんなにも綺麗な絵を描いてるんだもん。

それに美術のデッサンだって、すごく上手だった。



楽しそうに筆を動かす晴天に一人胸を撫で下ろして、再びハチマキを縫う手を動かし始めた。