恋々、散る


流し込むように残りの弁当を一気に食べ終え、もう一度ペットボトルを手に取り喉を潤す。


「ふー。食ったあ!」
「味はわかったのか?」
「弁当はいつでも食べれる!」
「ああ…確かに、な。」

何て言ったって、あのキレイに彩られた弁当は、亜矢自身が作っているのだから。
それは至極当たり前のこと。


「んで、時間もないことだし早速本題に入るけど、オーケー?」
「簡潔に頼む。」
「…オーケーオーケー。」

宥めるように右手を前に突きだし、わかっていると亜矢は嗤った。


「結論から言うと、隣の学校で集団自殺があった。」
「いつのはなしだ。」
「一週間前。ほんで、実はその子たち全員クスリやってました、と。」
「は、何だよそれ。」


隣…っていうと、梅桜か。
あそこは数ある高校の中でも女子のレベルと制服の可愛さがダントツで、色んな意味で男女共に人気が高いと有名な女子校である。
そんなところで集団自殺が起ころうとは、誰が予想できたであろうか。
しかもそれが公には一切公表されていない事実となれば、ふむ。亜矢にしては珍しく中々に興味深いはなしを持ってきたものだ。

ただ一つ、気になることが。


「誰に聞いた?」
「そ、そりゃあもちろん梅桜の子だよ。」

亜矢の肩が大きく一度、ビクリと揺れた。明らかな動揺。


先日、ついに(実際は何度目かの)運命の相手を見つけたとしつこくはなし、しかしその相手は自分よりも幾つか年上で中々一歩を踏みだせないと言っていた。

可笑しなはなしだと思った。
歳の差をリスクに感じるほど、亜矢自身恋愛に対して奥手な方ではなかったからだ。
ならば何故踏みだせないと悩む必要があるのか。
理由はただ一つ。


「…梅桜の教師か。」
「う…。」
「っとにお前は。…手はだしてねぇだろうな?」
「そこは大丈夫。俺、まったく相手にされてねぇから!」

自分で言って後悔したのか、亜矢はがっくりと肩を落とした。


それにしても、こいつのストライクゾーンは一体どうなっているのか。
まったく、謎だ。