恋々、散る


「……で、お前は何をやってんだ?」

頬杖ついて、ギロリと一睨み。
俺の右手の人差し指はリズム良く机を叩く。
トントン、トントン。

「ゆ、悠…。」

悪びれもせず、少しも悪びれもせず。
ただただ気持ちの篭もっていない平謝りを続ける男は目の前に。
こいつのせいで、最悪だ。

「ですから、ですからですね?悠さん」

あれほどわかりやすいところに記載しておいたというのにまったくこの男ときたら。

「亜矢」

「はい」

上擦って、苦笑。
少し開いた窓から爽やかな風が二人の間を吹き抜けるわけもなく、沈黙。



ちょうど二時限目の終わり。チャイムが鳴ったとほぼ同時。
一時限目の英語、二時限目の数学をゆっくりと夢の中で過ごしていた俺の上に迷うことなくダイブしてきた馬鹿一人。
もちろん馬鹿…修正。もちろん亜矢である。
命知らずとはまさしくこいつのことを言うのだろう。
衝撃で潰されかけた鼻をさすりながら、惑うことなく朝以上の不機嫌モードに突入し、今に至るというわけだ。

「鼻を潰しかけたことは悪かったと思ってるよ、悠。」
「これは見えなかったか?お前の目は節穴なのか?」
「これってどれよ?」

知らぬ存ぜぬをあくまでも貫き通そうとしている亜矢に舌打ちし、これだよと俺がわざわざ亜矢宛てに残していたメモを指差す。

「……亜矢」
「なんだい、悠くん?」
「お前…」

確かに書いていたはずなのに。いつの間にか亜矢宛てのメモはキレイさっぱり消しゴムで消されていた。
シャープペンで書いたのが俺の致命的ミス。犯人はもちろん、こいつだ。

「しっかしホント良く寝てたよなー!」

してやったり、と余裕の笑みがなんと憎たらしいことか。

「昼までは起きるつもりはなかったんだけどな。」
「ありゃ?そうだったの?そりゃあ悪いことをしてしまったね、悠くん。」

すまないすまないと何度目かの平謝り。続けてコホン、と咳払い。

ああ、また良からぬことを耳にでもしたのだろうと、ついに俺は白旗を上げて降参した。
こいつにまともに付き合っていたら、俺の身が保たない。


俺は静かに聞き役に回ることにした。