恋々、散る


ふあぁぁぁ。

うるさい担任が来る前にと、周りも気にせず一つ欠伸をしてからゆっくりと瞼を閉じていく。
この瞬間が、なんというか俺にとってはたまらなく気持ちいい。

視界をゼロにすると、一瞬ではあるが昨日の黒髪の少女がチラリと浮かぶ。

あの後、結局黒髪の少女とは言葉を交わすことなく終わった。

雨が止んだのだ。
あまりにも不自然に、ぴたりと。

雨が止めば雨宿りする必要もなくなる。ならばそこから立ち去ることは、至極当然のことでもある。

先に動いたのは少女。
最後まで視線が交わることはなかったが、それでも少女は嗤っていた気がする。最後まで。

(変な行動も仕草もしたつもりはなかったんだけど、な)

それでも俺の何かが彼女のツボになっていたのだろう。或いは何か他の…。
そこまで考えて、ついに俺の思考は停止。

まあ、停止したということはつまり、これ以上考えることはもちろん、思うことは何もないというわけだ。
俺の脳が無意味だと判断したのだろう。ああ、賢い。



『恋だよ、こい!』

人を好きになったことはない。一度もない。
興味がないのだ。恋にではなく、人自体に。

だから亜矢のやつにはよく冷たい、冷めてると嘆かれる。

誰かを好きにならなくともまったく問題なく生きていける。むしろ一人の方がラクだったりもする。
俺は、そういう人間だ。