恋々、散る


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「だーかーら!それは恋だって!」
「なんだよそれ。」
「何って恋だよ。こ、い!」

「…」
「その黒髪の美少女を見た途端、ドキドキしちゃったんだろ?ドキドキ!」

朝っぱらから何なんだお前は。という視線をあからさまに送ってやると、同じクラスの黒亜矢人(くろあやと)は一人納得したようにうんうんと何度も頷いていた。俺の肩を叩きながら。
ああ、こいつに昨日会った黒髪の女子のことを話したことはやはり間違いだったのか。


「…悠もついに……!」
「くだらねぇこと言ってないで席着けよ。俺が怒鳴られるだろうが。」

俺は鬱陶しく纏わりついてくる亜矢の腕を払いのけながら時計を指差した。


「悠…お前ってやつは」

いつも通り冷たいやつだな!と口を尖らせて訳の分からないことを吐き捨て、亜矢はようやく席へ戻っていった。


間もなくして予鈴が鳴り、それからさらに間もなくしてやたら声のでかい担任がでかい音をたてて教室のドアを開くだろう。
朝のほんの少しの有意義な時間も、五月蝿い亜矢に奪われてしまった。
今日の授業はすべて潰そう。
テンションの下がった気持ちをどこへぶつけることもできず、広げたノートの端っこにサラサラと言葉を連ねた。

予鈴が鳴る。

俺はため息を一つ吐き、小さく欠伸。
それからゆっくりと窓の外を見た。
今日はどうやら、晴れのようだ。


『俺は寝る。昼までは絶対に起こすなよ、バカ亜矢』