恋々、散る


「悲しくなるからはなし戻すけどな、集団自殺…確かにそれも大変なことではある。」
「だが、問題点は別にあると?」
「その通り!」

亜矢は嬉しそうに机を叩き立ち上がった。
その一瞬、クラスの視線が亜矢に集まる。
俺は眉間に皺を寄せたが、当の本人はまったく気にしないといった感じで再び席に座り直して少し大袈裟に顔を近づけてニヤリと嗤った。


「実は自殺じゃあなく、他殺じゃないかってはなしが出てるんだと。」
「そういう形跡があったってことか?」
「集団自殺が起こった教室の有り様があまりにも酷かったらしいんだよ。まるで化け物が現れたんじゃないかってくらいにな。」
「化け物?」

ありえない、と俺は嗤った。
正直、その言葉が出てきた瞬間に俺の興味は消え失せた。
けれど亜矢の瞳はいつになく真剣そのもので、俺は自身の背中がゾクリ、と震えたのを感じた。


「クスリやってたなら、ラリって暴れた挙げ句自殺、もしくは周りの奴らを殺して自分も死んだってことも考えられるだろ。」
「そのクスリってーのも引っかかるんだよなあ…。」
「何が。」
「実は、一人だけ生きてた子がいるんだ。」
「その状況で?」
「もちろん心と体に大きな傷を負った。でも、辛うじて一命は取り留めたんだ。」

最悪な形でな。と続け、亜矢は眉間に皺を寄せた。


「その子は意識不明で病院に運び込まれた数時間後、無事意識が戻った。
だけど、目が覚めてからはずっと誰を見ても誰かが何を言っても"化け物が私を殺そうとしてるの!タスケテ!"そればっか。」
「……。」
「さてさて。そこで問題になってくるのが、クスリの存在だ。」


口調こそ普段の亜矢そのものだが、マイペースな亜矢にしては珍しく、随分と興奮気味のようだ。
事実、はなすスピードが多少ではあるが速くなりつつある。
それ程までに、亜矢にとって興味深いはなしなのだということだろう。