執拗に迫り来る追手。
それが未だ自分自身の近くにあるという事は、その気配だけでも十分に感じ取る事が出来た。
見えなくても、聞こえなくても。
これが自分自身の身を守る為に与えられた能力なのかだろうか。
もしそうなのであれば、私はそんな力欲しくはなかった。

寝転がったまま見上げた夜空に月はない。

そのまま目を閉じると聞こえてくるのは母の叫び。

それはほんの少し前に聞いたのかと思うぐらい鮮明に耳に残っている。

『オルビナ!!行きなさい!!』
悲痛なまでの叫び声に、あの時私の足は弾かれた様に駆け出した。

ごめん。お母さん……

最後の力を振り絞り、私は身体を起こす。
首と付く所全てに大きな石を縛りつけられてるのかと思うぐらい身体は重かった。
先程まで歩いていたのが信じられない。どうやって歩いていたのかさえ分からない。
一度歩く事を放棄した足はもう思うようには動いてくれず、引きずるようにしてどうにか身体を動かす。

寒暖の差の激しいこの地。
昼は歩いているだけで汗をかくが、すっかり日が落ち闇夜となった今は凍える程寒いはず。だが、その寒さも全く感じない。
それどころか涼しくて気持ちいいとすら思う。

身体はもう限界をとおに超えていた。