HDD彼女

 誰も居ないハードディスクコーナーで、ざっと一通りの商品を眺めていく。
 購入する商品を決めてあるとはいえ、陳列棚にはどんな掘り出し物が置いてあるか判らないので念の為というヤツだ。
 加えて言うならば、せっかく買い物に出掛けて来たのだからという思いから、その雰囲気と商品を眺めるという買い物における醍醐味を若干ながら楽しんでみているのである。

 残念ながら、今回は大した掘り出し物も置いてはいないようであった。
 続いて、棚に並んだ商品から目当ての品を探す。
 探している間に、色んな会社からリリースされている外付けハードディスクに目を奪われ、浮気しそうになるのだが、それらの商品の誘惑に負けてしまう前に目的の品を見つけ出すことに成功した。

 安いという事は分かっているのだが、それでも少々気になっていた商品の価格は――俺の思惑通りに、というよりも予想以上の結果であり、何と七千円を切っていた。
 これは、少し前までならば500ギガバイトのハードディスクが販売されていた価格の相場である。あまりの安さに思わず顔が緩むのが分かる。この場所が電気街でなければ店員が警察に通報しそうな顔だ。
 一応、その辺りの怪しさを自覚しているので、すぐに自戒して表情を平静に戻すように努める。
 気分を落ち着かせながら、ゆっくりと商品の交換カードを手に取る――と同時に、コーナーの向こうから足音が聞こえてきた。

――おっと、誰かがハードディスクコーナーに向かっているようだ。

 人の気配を察知した俺は、暗黙の了解に従って足早にハードディスクコーナーから立ち去るのだった。