HDD彼女

 本日の目的であるハードディスク関連コーナーは、エレベーターを出て左手に曲がった、奥側の壁に面したコーナーにある。
 俺がパソコンに興味を持ち、電気街に通うようになってからはや十年。
 電気街に通い始めて一ヶ月目には既にこの店に通うようになっていたからジャンパラ歴も十年というわけだ。嫌でも店の内部構造に詳しくなるというものだ。
 迷路のようになっている通路にも関わらず、俺は全く迷うことなく通路を歩き、すぐさまハードディスクが展示されているコーナーにたどり着く。

 予想していた通りコーナーには誰も居ない。
 ひょっとすると俺がここに来るまで他に誰かが居たのかもしれないが、俺がこのコーナーにやって来たことにより、暗黙の了解の元で立ち去ったのかもしれない。

――まあ、誰かが居ようと居まいと、俺には関係ない。

 誰も居ない、もしくは誰も居なくなっているのだから、現在このコーナーは俺だけの領域ということだ。
 快適な環境下で気兼ねなく買い物を楽しめば良いのだ。
 しかし、俺とてそれほどゆっくりしておく訳にもいかない。
 早々に目的の品物を選んで、誰かが来る前にこのコーナーを後にしないといけないのだから。あまり悩んでいる時間は無いのだ。
 他の街や他の店はどうか知らない。だが、この街と……特にこの店ではそれこそがマナーであり、絶対的なルールなのだ。

 何人たりともそのルールを破ることは許されない。
 それが、例え上級ヲタクの俺であったとしても……だ!