HDD彼女

 別に、警戒などしなくても初めから誰も近寄ってくる訳でもないのだが、俺達『オタク』というのはそういう性質を持っているのである。
 そういった、俺と同種類の人間が集まってくれているおかげで、電気街のディープな場所では特に快適な気分で買い物が出来るのである。

 俺が電気街に出掛ける時というのはたまの外出の機会でもあるし、出来れば俺だってそういう時ぐらいは快適に過ごしたい。
 俺にしたところで、自分と似たような格好をした、やや暗そうで伏し目がちな人間に近寄りたいとは思わないし、俺からそう思われている相手だって俺のような人間に近寄られたくはないだろう。

――『同属嫌悪』とでも呼ぶべきか、それとももっと穏やかに『美しい譲り合い精神』とでも呼ぶべきだろうか……?

 ともかく、そういった心情がこの場所に集う人間の中に徹底されているおかげで俺は外出先とはいえど、電気街の中に限ってだけは苦手な対人関係というものに煩わされずに済んでいる訳だ。
 まさに店の名前の通りで、この店は俺にとっての電気街における『パラダイス』という訳なのである。