ＨＤＤ彼女

　この電気街という土地は不思議なもので、ディープな場所になればなるほど人影が極端に少なくなるものだ。
　別に、その付近に人がまるで居ないというわけでもないのだが、何故か人だかりというものが出来にくくなっている。
　通路を一つ挟んでみたり、コーナーを少し移動するだけで人影を確認することは出来るのだが、特定の場所に複数の人間が存在しているという光景を見る機会がディープな場所になればなるほど少なくなる。

　まあ、それには複雑な事情が存在する訳でもない。
　ただ単純に、一つのコーナーに複数の人間が集まらないという訳なのである。
　まるで、そこに『暗黙の了解』でもあるかの如く、誰かがあるコーナーに立ち入ればそれまでその場所に居た人間が立ち去って行くという方程式が成立しているのだ。

　恐らくは、俺と同じように極端に『人と交わるのが嫌い』というタイプの人間が多いのだろうと推測しているのだが。これはあながち間違った考えでも無いと思う。
　俺だけでなく、このような場所に立ち寄る人間のほとんどが自分の居るスペース、もしくは近辺に、人の気配があるというのが何とも苦手なのだ。
　誰かが近寄ってくるだけで、恐怖感に近いような息苦しささえ感じるのだ。
　その恐怖感を最大限避けるためにマナーであるかのように暗黙の了解が成立してしまっているのである。