喜代子ははぐれないように、松ねぇの浴衣の裾をきゆっと握り締めた。 黒地に艶やかな、大輪の菊。 松ねぇの白いうなじによく似合う。 『キヨちゃん、はぐれないでね』 松ねぇが心配して振り返る。 沢山の人の流れに呑み込まれたら、喜代子の小ささではあっという間に迷子になってしまう。 幼いながらに、喜代子もそのことは十分承知していた。 それでも目に飛び込む鮮やかな屋台に心奪われてしまうから、浴衣の裾を握る手に一層力が入ってしまう。