「昌ちゃんが大きくなったら、あたしのお嫁さんにしてあげる。」
奈美は笑ってそう言った。
「違うよ、奈美ちゃんが僕のお嫁さんになるんでしょ?」
砂のお城は、もう出来上がっていた。
ふたりの小さな手が止まる。
「だめだよ、だって、昌ちゃんちっさいんだもん。」
唇を噛みしめたら、それを合図にするかのように、涙がどっと溢れたのを覚えてる。
「僕が奈美ちゃんをお嫁さんにするから‼」
奈美ちゃんは驚いてた。
昌吾は反抗するのを言葉にできず、一緒に作った砂のお城を崩した。
何度も何度も、足で踏みつけた。

―――――――――――あれから9年が経った。

『瞬間、グランドにはせて』

「峰藤高等学校だって?聞いたか?」
康哉はすっかり驚いた顔をしていた。
「公立高校だったよな…あそこ。」
もう言いたいことは分かってる。
「いつから、馬鹿が通うような学校になったんだっけ?」
最初からそういえばいいんだ。
長谷川昌吾(16)
血液型A型。
部屋は片付いてるのにおいてあるのは漫画本だけ。
はっきりいって天才の素質なし。
親友の康哉も同じく。
そんな二人がどうしてそんな高校に入れたのか。
「陸上でここまでこれるなんてな。」
ふたりは顔を見合せて笑った。
今年から高校一年生。
この高校の屋上は解放されているから、いつだって入れる。
「身長いくつになったの?」
「165㎝。」
小さいままでよかったのかもしれない。
時がさかのぼる。
中学校一年生のころだ。




「奈美ー。」
岬奈美の家の前で、昌吾は大きく叫んだ。
「うるっさーい‼」
玄関に飛び出のは、少し背の高い女の子だった。
158㎝の、ちょっと背の高い女の子。
昌吾の身長は146㎝。
「おーおー、相変わらずちっさーい♪」
サブバックを肩にかけた奈美は、自分の身長と昌吾の身長を比べるように、
手をかざした。
「今年で中一っていうのにねー。一緒の年には見えないよねー。」
「うるさい。身長なんてどうだっていいだろ。」
自転車を奈美の前でとめる。
「のせてくれんの?」
「無理」
口を前に突き出して、昌吾はすねた顔をした。
分かってる。