「村」ってのが嫌い。
凄くダサくて、イナカで嫌い。
あるのはパチ屋だけ。
あとは野原か田んぼ。

「今日もいい天気だね~」
畑のお婆ちゃんが言って来る。
「ホントだよね~」
と調子よく答える。
なんかそんな毎日。

有り得ない。

買い物するのにも町へ1時間かかるから面倒で、
しかもスーパーだからロクな服も売ってない。
今じゃすっかりネットショッピング。

でもつい、買いすぎて後悔しちゃうんだよね。
でもさ、可愛い服買ったって着て行くトコ無いし、
着たってババアたちに「変な格好」とか。
あんたたちの方がよっぽど変だよ!
って言ってやりたい。

***

だけど、この村で一つだけ好きなものがある。
それは「龍の大桜」

すっごいデカイ桜の木で、大人5人で囲んでも手が届かない幹、
満開になった桜は夜でも白く輝いて見えるの。

そして散る。

ハンパない数の花びらが、ひらひら、ひらひら。
凄い綺麗で、それだけ好き。

幹の下には小さな竜神様を奉ったホコラがあるの。
汚いし、ボロイんだけど、村の皆が毎日拝んでる。
だったら綺麗にしろっての。

この大桜、実は何年かに一度、秋に咲くの。

今年はそんな年。

その時の桜に【好きな人】の髪を枝にゆわくと
なんと! 願いが叶うらしい。

やってみようかな、って思ってる。
そういうのって信じるほうじゃないけど、
都合のいい事は信じてみたいもんね。

さーて、翔流(かける)はどこ行ったかな~?

翔流は私の兄貴代わり。
ちっちゃい時から一緒。だけど、女と付き合った事ないらしい。
だから、私が最初に付き合ってやろうというわけ。

――別に、他の女に取られるのが嫌なわけじゃないんだけど。

でも何か悔しいっていうか、今まで一緒だったのに、
急に変な女に持っていかれるってシャクじゃない。

だから、決めた。

私が翔流を取っちゃおう。――って。

その為には「髪」がいるのよ、「髪」が。
桜の蕾はかなり大きくなっているんだから早く!

ド田舎だから、小学~高校まで校舎が一緒。
だから探すの面倒なんだよね。
あ~もう!

「翔流~!」

そんな時、後ろから声がした。

『早く、君に、会いたい』