「ここの珈琲、マズい」
 
君はこの喫茶店に入るなり言いました。
レジでお客さんの勘定を確かめているお姉さんの眉がぴくっと動きました。
 
 
人気の少ない店内の更に人のいない角の席に座りメニューを開きます。
珈琲が、ありました。
 
 
「高い。それもマズい」
 
 
言いつつ君は先程のお姉さんに珈琲を二つ注文します。
何もせずただ互いに相手の目玉を二十分くらい凝視していましたら、珈琲がやってきます。
 
 
「………」
 
 
そう言うと君は湯気のたつ珈琲をお姉さんにぶちまけました。
 
 
「熱いっ!」
 
 
お姉さんの悲鳴が響きます。
同時に店内の人も少ないながらざわつきます。
僕は自分の珈琲を二口ほど飲みました。
 
 
「私はカフェじゃなくてカフェーがいいのです。喫茶店じゃなくて喫茶がいいのです」
 
 
僕と君はこの喫茶店から出ていきました。
お姉さんが火傷した頬を痛そうにさすっていました。