はじめてこのパレスに入居した日、彼に握られた手は、あたたかかった。
 
拓海さんに悪い冗談を言われて、傷付いた時、十郎さんはやっぱり私に触れた。

あの時は、私を慰めようとしてくれた、その彼の優しさが嬉しかった。


男の人に抱きしめられるのは初めてだったのに、

恥ずかしさよりも、不思議と安心感の方が勝っていた。



かつて私は、十郎さんに恋心のような気持ちを抱いていたはずなのに、……今は分からなくなってしまった。



(……違う。

私は、この気持ちから逃げようとしていたんだ)
 

思い立った私は、自分の心の中に沈んでいた、嫌な記憶と向き合ってみた。
 

蘇るのは屈辱と――不快感と、途轍もない嫌悪感。
 

思えば、あの頃から私は、頑固になったような気がする。
 

今考えてみると、『あれ』は紛れもない事故で、

あんなものを私に見せた祖母を恨むのも、もしかしたらお門違いなのかもしれないけど……。