――そういう事があった。 だからこそ、十郎はこの縁談を、受けるわけにはいかなかった。 それに彼は、多少なりともこれまでの自分の行いを反省し、恥じる気持ちもあった。 仕事もしたが、好き勝手もしてきた。 そんな彼が、言った。 「……これが、最後のわがままですから」 十郎は、頭を下げた。 ほとんど人に謝った事などない彼が、心から頭を下げたのだった。 時間が止まったかのように、誰も動かない。 重い沈黙が、流れた。 十郎はそれでも、頭を下げ続けていた。 「……もういい、頭を上げろ。十郎」