「――そこまでだ、十郎……」
何かを言いかけた俊夫を遮る低い声は、当主のものだった。
「……お前は、口が過ぎる」
十郎は、さっと佇まいを正すと、当主――彼の祖父に、一礼した。
俊夫は、十郎に掴みかかろうと腰を浮かせていたが、勢いを削がれてすごすごと引き下がった。
俊夫は、十郎が当主に叱られる事を望み、待っていた。
「……十郎」
しかし、当主の言葉は、十郎を諌めるものではなかった。
「お前には、誰か心に決めた人がいるのか……?」
「いいえ。まだ誰も……」
「それでは、何故縁談を断ろうとする?
これもまた一つの機会だと、素直に受ける気すら無いのか」
「はい」
「理由は?」
「…………」
一族が連れてくるのは、この『家』を知っている人間だ。
まっすぐに『僕』を見てくれない女ばかりだ……。



