「出鱈目を言うな!
第一、私の話とお前の話と、何の関係がある!」
……ここまで言っても、まだ分からないのか。
まだ恥をかきたいのか。
皮肉と落胆を込め、十郎は続けた。
「奥さまとは、お見合い結婚でしたね……」
十郎は、知っていた。
叔父夫婦の結婚は、いわゆる政略結婚だったと。
業界で覇権を争う為の、契約。
企業と企業のより強い結び付きを深める為の、偽りの絆。
ぎこちない夫婦だった。
行事や社交パーティなどで叔父夫婦を見かける度、十郎は思っていた。
俊夫は、美しく艶やかな妻に満足しているようだったが、彼女は違った。
背も低く、どこか野卑な気のする俊夫の風情に、常に我慢のならない様子だった。
現に、彼らの子供が無事に自立してから、彼女はきっぱりと見切りをつけるように、
別宅に引っ越してしまっている。



