十郎の前には、いくつもの冊子が広げてあった。
中には、どれも気合いの入った写真が納められ、花嫁候補の女性達が一様に微笑んでいた。
彼女達は分家の娘や、取引先の大企業の令嬢だった。
「どうだ……気に入ったひとはいるかね?」
十郎は、近くに座っていた叔父に訊かれた。
彼の答えに、その場の全員が固唾を呑む。
しかし、十郎は大きな溜め息を吐くと、首を横に振った。
「…………全然」
一同に、戦慄が走った。
「……申し訳ありませんが、誰に会いたいとも思いません……
このお話は全て、無かった事に……」
すると叔父は怒りを浮かべ、喚くように言った。
「そ、そんなに簡単に、済む話では無いんだぞ!」
どうやら花嫁候補の中には、彼の推薦する女性がいたらしい。
「はぁ……でも、気に入った人がいません」
「わがままも大概にしろ!」
「わがままを聞いて貰えずに、無理矢理決められた相手と一緒になって、
それでこの家に安泰は訪れるでしょうか?」



