――屋敷の一番古い大広間の壁と天井には、空間そのものを支配するように、おどろおどろしい絵がいっぱいに描かれている。
迫力のある、真っ赤な絵だ。
大昔の先祖が、この屋敷を建てるに当たり、有名な絵師に描かせたものだと聞いている。
そしてその絵は、見る者の心によって、変わると言われていた。
心の弱い人間には、その絵は金棒を構えた鬼に見えた。
逆に、自信に満ちた心の強い人間には、その絵は翼を広げた豪奢な鳳凰に見えた。
日によって、見え方が何度も変わった。
十郎は、何か気になる事がある度に、その絵を見上げてきた。
失敗をしたと思った時、絵は今にも自分を殴りかからんとする鬼になった。
そして、自分の選択が正しいと思った時、絵は彼の背を後押しするような、優美な鳳凰になった。
一族の大切な会議は、いつもその広間で行われた。



