そんな自分の事を、弟は皮肉を込めて『好色一代男』などと言った事もあった。

そのうち甲斐性では済まされない病気にかかるぞ、と諌められた事もあったが、

それでもどこか他人事のように考えていた。





(春になったら……)




来年の春になったら、ここを出て行かなければならない。

実家に帰るのだ。

武家屋敷に改築や増築を繰り返して迷路のように成長した、大きな大きなお屋敷に。


十郎の家は、何百年と続く旧家だった。

そして彼は、その家の跡取り息子で、なおかつどら息子だった。


今、彼は系列会社の社長職に就いている。

いずれは、グループの総帥になる事が決まっている。


代々世襲制なので、その事を充分に刷り込まれて育ってきた十郎は、それなりに納得しているつもりだった。