この日も、私は一人で十郎さんの部屋を訪ね、食事の支度をしていた。

冷蔵庫(備え付けの一人暮らし用ではなく、大きなファミリー用の冷蔵庫だ)

には常時、拓海さんが買ってきた野菜や卵や肉なんかが、たくさん納められている。

一人で、こんなに食べきらないだろうにと、いつも不思議でならないけど、なるべく古いものから順に使う事にしている。


(あ、キャベツ傷みかけてる……。小松菜もそろそろやばいな)


適当に野菜を選んで洗っていると、不意にフロアから足音が聞こえてきた。

そのまま、背後のドアが開く。


振り向くと、しかし、そこにいたのは、子犬を抱っこした見知らぬ青年だった。


「こんばんはー♪」

「えっと、こんばんは……」

「あれ? ジューロー陛下は……」

「お出かけ中です。あの、どちら様……?」

「君こそどちら様?」

 
青年は、あっけらかんと言った。


彼の腕の中で、子犬も一緒にきゃんと鳴いた。