彼の言葉を、物理的に遮ってしまった。
十郎さんは、驚いていた。私も、自分でやっておいて、その行動にびっくりしていた。
お互いが、状況を理解するのに要した数秒後、私は手を放した。
チョコバナナが落ちないように、慌てて十郎さんが棒を持ち替えた。
だけどバナナは咥えたままで、ちょっと茫然としてから、諦めたようにチョコバナナを齧り始めた。
口の端に、チョコが付いている。
何だかその後、私達は喋れなくなってしまった。
それぞれ差し入れでお腹を満たして、のろのろと帰り支度をして、
念のために裏口を使って学校から出て、電車に乗った。
二人とも会話らしい会話もせず、三階から飛び降りた事も、
それを受け止めた事も忘れたように落ち着き払って、パレスまで帰った。
階段のところで別れて、私は十郎さんの背中を見送った。
それ以来、私は十郎さんに会っていない。