苛立って訊き返すと、ミエロは再び私に歌えと言った。


「だから前に言ったじゃん。良い声だって。

だから決めたんだよ。

構想練るのに、こいつ使おうって……」

「また随分、上からの物言いですね。

でも嫌ですよ。

私今からシャワー浴びるんです。

今日は解剖があって、においが髪について、何か気持ち悪いから……」
 
言い終わらないうちに、ミエロは私の髪をさっと持ち上げ、

「あー大丈夫大丈夫、しないしない!」

「うわっ、放してー!」
 
ミエロは髪から手を放したものの、今度は素早く腕を掴んだ。

そのままぐいぐい引っ張られる。ピアノのある部屋に連れて行かれる。


「よし!」

(何がよしだ!)
 
ツッコミを入れたくなったが、ミエロの輝いた目に、

何だか圧倒されて何も言えなくなった。
 

こんなにも何かに一生懸命になっている(?)大人なんて、間近に見るのは久し振りだった。