「緒方さん、緒方さん!」

真二が名前を呼ぶと、彼女は若干潤んだ目で訴えた。


「助けて加藤君!」


……面と向かって言われると、ちょっとドキッとする。

なんて、言ってる場合じゃない。



「わ、分かった……」

彼は、他の班の軍手を借りて蓋を上げ、はみ出していたラットの頭をくいっと押し込んだ。

ラットがエーテルでコロリと倒れてからやっと、ラットにごめんねと謝る余裕が出来た。


「ふー、ふー……」


「ほら、何落ち着いてんの。ラットが寝たら、早く出して。出さないと窒息して死んじゃうでしょ」

先生は、容赦ない。


「は、はいっ……」



そう。血液を採取するには、ラットの心臓が動いていなければならないのだ。

白く柔らかい毛の、ハツカネズミ。

これまで、清潔で適温で、好きなだけご飯を食べられる安全な環境にいた彼等。


今はただ、ぐったりと力無く、目を閉じている。


体が温かくて、まだぴくぴく動いているのが哀れだった。