それでも、自分の本職や『家族』の事を、
一切話してくれない理由……。
考えてみたら、彼は自分の事はほとんど口に出さなかった。
話題に上がるのはいつも、パレスの住人の事ばかりだった。
十郎さんの事といったら、聞き出せたのは食べ物の好みくらいだ。
そして今は……どうして急にここに来た?
何を探して、部屋を見回ったの?
「……すみません」
十郎さんは目を伏せて、俯くように呟いた。
「すいません、僕の癖なんです。
大切な事を、伸ばし伸ばしに言うの。
……苦手なんです。掻い摘んで話す、っていうのが。
でもここまで、奈央さんが気にしてるとは思ってませんでした。
駄目……でしたね」
(……謝ってる割には、
やっぱり『伸ばし伸ばし』なんですけど……)



