この会話は小林に丸聞こえだったが、

彼は今回の一件は、柴犬に出会えたからそれでいいやと思った。

彼はしゃがんで、一生懸命ミルクを飲んでいる子犬を、優しく撫でた。

「よしよし……いっぱい喰って、早く大きくなれよー。

強くてたくましくて……権力なんかに負けないくらい、

でっかくなるんだぞー。 


俺や、岩井さんや、所長の分もなー……」

小林の思いを知ってか知らずか、子犬は元気よく返事をした。
 

しかし、『しばちゃん』の正体がマメシバで、

それ以上大きくならない事を彼等が知るのは、


もっとずっと後の事だった。