“俺様”大家の王国




「はーい、誰?」

通路にいたのは、見覚えの無い男だった。

かっしりと、スーツを纏っている。

しかしそのスーツは、湿気にやられて、どこか重苦しい印象があった。

「……どちら様?」

「はじめまして」
 
謎の客は、懐から名刺を取り出すと、うやうやしく芳樹に渡した。
 
そして名乗るなり、彼は単刀直入に訊いた。

「このアパートに、緒方奈央さんという女性が、

最近引っ越して来ませんでしたか?」
 
男は、探偵だった。

年は、決して若くは無いが、中年というわけではない。

そんな、微妙な年代に取れた。

「何のことですか?」
 
咄嗟に、芳樹は惚けた。