奈央は、とうとう電話番号もメールアドレスも、

自分には教えてくれなかったから。

しかし、逆効果だった。

感情が籠れば籠るほど、二人の気持ちは奈央に傾いていく。

終いには、義子は二人を怒鳴りつけていた。
 
――よくも、奈央を隠したわね!
 

私の気も知らないで……。
 

泣きたいような気持だった。

日本を代表してもいいような女優、紅原綾子。

彼女が黒と言えば、白だって黒になる。

地位のある芸能界では、それが通用した。

権威という毛皮の豪奢なコートを纏い、逆らう者は決して許さない。

自由という宝石のはめ込まれた指輪の示すその先に、

彼女はいつも不可能を可能にしてきた。