バブルのころは善吾郎宅の百坪弱の土地を目当てに、土地転がし業者が札びらを切ってへいこらしてきたものだが、このところの不景気でめっきりそういう輩も減った。

善吾郎は、次々と出征して戦死してしまった上の四人の兄と両親の菩提を弔うためこの土地を動けずにいたのだが、そうこうしているうちに完全に売り時を逸してしまったわけだ。

今は築四十年の家を守り、夫婦二人、じきに七十の坂を越えようとしている。