大江戸善吾郎は二.二六事件の日に生まれた。

昭和十一年二月二十六日、皇道派の青年将校が昭和維新の断行を企図し、千四百人あまりの下士官を率いて首相官邸を襲撃した日のことだ。

もちろん、その日ようやく産声を上げたのだから、善吾郎と二.二六事件にはなんの関係もない。

ただ、歴史に残る日に生まれたということは善吾郎の心密かな自慢であった。

たとえ、北海道なんていう中央からかけ離れた土地に生まれてしまったのだとしても。