本当に幸せで周りが見えなくなる。
幸せすぎて真実を知ろうと思わなかった。
このままでいたいから現実に目を背けていた。


「ユキちゃん!」


彼の名を呼ぶと彼は歩く足を止めて、そっと私に近寄って来る。


「朱美。」


彼もまた私の名前を呟く。
彼の指が私の頬に触れ、彼の顔がどんどん近寄って来て2人の唇が甘く重なった。
5秒くらいのキスも私にとっては幸せの時間だ。


「ユキちゃん、じゃあね。私、今日ちょっと寄る所があるから。」

「うん、気をつけて帰れよ。じゃあ。」


そう言って自分の帰路へ足を進めるユキちゃん。
ユキちゃんの背中は、やっぱりいつみても寂しそうだ。

ユキちゃんは、つい最近付き合いだした私の彼氏だ。
私の一方的な片思いでユキちゃんは私と付き合う前に違う女の子と付き合っていた。そしてその女の子と別れたと聞いて私は告白したのだ。

ズルイ女。誰しもがそう思うだろう。
別れたのを知って告白したのは少しでも可能性があるからと思ったからだ。

最初は付き合えただけで幸せだった。幸せすぎて何も見えなかったのだ。
だけど今は、ユキちゃんと一緒にいても悲しくなるだけだ。

そんな事わかっているつもりで信じようとしなかった。信じたら全てが終わる。現実を見たら全てが終わる。