「ちょ、待って!葉月ちゃん!」

「待ってって言われても、アンタが歩くの遅いじゃん。」

「いやいや、葉月ちゃんが速いんだって!」


一応、俺と葉月ちゃんはカップルだ。
葉月ちゃんは黒髪のロングストレートで性格は見ての通りサバサバしている。

そんな葉月ちゃんを俺はいつも追っかけている。
歩くのだって俺より速いし、朝起きるのも早すぎるし・・・。

別に追っかけるのが嫌いな訳ではないからそれはそれで良いと思っている。


「あ、葉月ちゃん。ちょっと寄っていい?」


そう言って俺が指差したのは通いつめているレンタルビデオ屋だ。
つい最近、俺の大好きなバンドが新曲を出したらしく前々から気になっていたのだ。


「あたしは興味ないから先行っとく。司だけで行ってきなよ。」


ガーン。
まさにその効果音が似合う超可哀想な場面だろう。
でも葉月ちゃんのこんな態度にはもう慣れている。


「そっか。なら俺、後で走って追っかけるから先行ってて!」


そう言うと葉月ちゃんは頷いて、スタスタと歩き始めた。
俺は急いでレンタルビデオ屋に入り、新曲コーナーへと行きお目当てのCDをレンタルした。


『まいどありー。司は、もう常連だなぁ!』


ハハッと大声をあげて笑う店員のオジサンはもうすっかり打ち解けている仲だ。


「まーね。オジサン、また来るから!」


自動ドアが開き、走って葉月ちゃんを追いかける。
歩くのが速い葉月ちゃんを追いかけるのは大変だ。


「あっ!葉月ちゃん!」


やっと見つけた頃には家の近く。
俺って足遅いのか・・・?なんて心配してみたり。


「司、早かったね。」

「だって早くしないと葉月ちゃん足速いから間に合わないだろ?」

「そうだね。司、ありがと。」


その後、葉月ちゃんは真赤な顔をしながら俺の唇に自分の唇を重ね合わせた。

葉月ちゃんを追いかけるのは大変だ。
だけどこんなにも嬉しい俺の“特権”がある。


俺はやっぱり追いかける方が性に合っている。
どんなにへこたれ様が葉月ちゃんだけは永遠に追っかけていられる自信があるんだ。


end