この恋が悲しい恋だという事は私自身が1番わかっている。


「ねぇ、もっと口開けて。」


そんな風に優しく耳元で囁く彼の言う事を私は素直に聞く。ゆっくりと鍵をかけていた口を開き彼を受け入れる。その瞬間に痺れる様な感覚が全身を襲った。

ああ、この時が1番幸せ。
だけど、涙が零れ落ちてしまうこの時は1番惨め。


「ん。ありがと。」

「うん、じゃあね。」


彼は私の手に1つの飴を落とすと逃げる様に去って行った。彼が私にくれるこの飴は“お礼”なのであろう。その有難味が詰まった飴は私にとって残酷な飴に見えてしまう。

彼とは恋人でもない。かと言ってそれほど親しい関係でもない。悪く言えばクラスメイト、良く言えば友達だ。

だけど私はそんな彼に恋という名の残酷な感情を抱いている。
苦しくなるだけなのに、悲しくなるだけなのに、辛くなるだけなのに。彼しか目に映らないんだ。彼が運命だと思った。だけど、運命なんていう綺麗なものではなく小汚い彼との関係。

この関係に終止符を打ちたいと、どれ程願っただろうか。ある時は満点の星空に願いを捧げて、ある時は彼から貰った飴に願いを込めて、ある時は彼の背中を見ながら心の中で願った。

彼とは、学校ではなくて夢の世界で逢いたかった。

夢の世界では普通の恋人同士になれていれば、どんなに嬉しいだろうか。夢の世界では幸せに満ちた甘酸っぱい青春のキスがしたい。

例え夢でも幸せな関係の方が私にとってはとても幸せだ。これ程にはない幸せを夢の中では掴みたい。

だから、次は夢で逢いましょう。
この悲しい現実世界から逃げ出して幸せな夢の中で彼とは一生を過ごしたい。

・・・なんて事を心の中で想いながら、また次の日も彼へと堕ちて行く。


end