“愛”
なんて不思議な言葉だろう。


「ねぇ、先輩。何で人は誰かを愛しちゃうんだろう?」


私はその疑問をかつてから想いを寄せている先輩にぶつけた。
その疑問は気になって仕方がなかったんじゃない。
なんとなくの話題作りで口が勝手に口走っただけだった。


「それは僕にもわからない。だけど人を愛せなくなる事って寂しい事なんだよ?人を愛せなくなると自分も愛せない。人として終ってしまうかもしれない・・・。」


話題作りだったその疑問に先輩は澄んだ瞳で淡々と答えた。
私は心の片隅で淡々と答える先輩を不思議に思いながら、話を続けた。


「人を愛せなくなると、終わって・・・しまうの?」

「そう・・・。誰かを愛する事は命と同じぐらい大切なんだ。だから愛する事を忘れないで。」


そう答えた先輩の表情はどこか寂しげで今にも泣き出しそうな顔をしていた。

今度はその先輩の表情に疑問が生まれる。
聞きたいけど、聞き出せない。
なぜか聞いたらいけない気がしてならないのだ。

先輩は今、何を思っているの?


「僕はね、愛していた人を失った。もう3年も昔の話だけどね。幼いながらに、ちゃんと愛していたつもりだった。」


聞き出せないでいた疑問の答えを先輩はためらいもなく自分の口から話し出した。


「だけどね・・・僕の愛はたらなかったんだ。今は後悔ばかりしてる。今頃、後悔しても遅いんだけどね。」


声だけ笑って見せていても先輩の顔は全く笑っていない。
これ以上、先輩の過去に足を踏み入れてはいけないと思った私は話題を変えようと必死だった。

だけど思うように良い話題が見つからない。
そんな私を見て先輩は空っぽの笑顔でこう言った。


「小春ちゃんにも愛する人ができたら、精一杯愛してあげてね。」


嗚呼、この恋は一生叶わない。


end