「ばいばい。今まで、ありがとう。」


その言葉を聞いた瞬間、俺の耳には壊れ行く音が聞こえた。
その音は美しいとは言い難く、鈍く響きが悪い不協和音の様だった。
何もかもが終わった瞬間を身をもって体験してしまった俺はこの先の事なんて、どうでもいい様に思えて仕方なかった。

彼女のあの言葉を聞いてから、もう3ヵ月になろうとしている。
今でも俺は廊下ですれ違う度、下駄箱で会う度、委員会で同じクラスになる度に胸の鼓動が鳴りやまない。

彼女にとっては迷惑な話だと思うが、俺には彼女が全てだった。
なんせ2年近く付き合っていたんだ。未練なんてありすぎると言うほどある。

はぁ、と白い息を吐きながら冬の空を見上げた。
灰色をした空はまるで俺の心を映し出しているかの様だった。

切ねぇーな、俺って。なんて思いながら角を曲がる。そしてその瞬間に俺の中で後悔の嵐がとぐろを巻く。


「寒いねー。でもサトシの手、暖かい!」

「美幸の手は冷てー。大丈夫か?」


俺の耳に飛び込んでくるのは彼女と今の彼氏の楽しげな幸せに満ちた会話。
チラリと見た彼女の顔は笑顔で満ちていた。

こんな場面を見たくなかった、と言えば本当だが見たかった、と言っても嘘ではない様に思えた。

今、俺の耳には終わりの音が聞こえた。その音は不器用なりに綺麗な音色で優しい静かな音だった。

これで吹っ切れた。
俺は彼女が今幸せにしているかが不安だったんだろう。
彼女の笑顔を見た瞬間に「良かったな」と心から思えた。
やっとこの恋にピリオドを打つ時がやって来たんだ。
俺は心の中で静かに終わりのピリオドを打った。未練がましい男を卒業するために。

心の底から貴方が大好きでした.


end