私は思わず視線をあげる。

……までもなく。

「待たせたね、ユリア」

耳元に囁かれるのは、どれほど聞いても聞きなれることの無い、低く、それでいて艶を帯びた甘い声。

「……は?」

対して答える私の疑問系の一言には、もちろん、色気のかけらもあるはずがない。

きぃっと瞳を吊り上げて顔をあげた私に、黒いスーツに身を固めた『魔王様』は戸惑うこともなく美しいとしか形容できないような笑顔を浮かべた。

「淋しかったんだね、ユリア」

いやいやいや。
ああ、学校の廊下で背中からぎゅーっと抱きつくのも辞めてもらえますか?

隣のクラスから丁度出てきた誰かのお母さんが、目を見開いてこっちを凝視してるじゃないっ!!

(次ページへ)