しかし、その強い視線は諦めるそぶりなどない。
仕方がなく、私服に着替えた彼女を連れて近所のペットショップへと向かう。

幸い、ダックスフンドは1匹しかいなかった。しかも、黒。

「ねぇ、これって茶色く染められない?」

真剣に店員に聞いて、

「それは、動物虐待ですよ」

なんて説教されている。

「じゃあ、茶色いのは何処に居るの?」

「入荷したらご連絡差し上げましょうか?」

「入荷って、どこから?」

ブリーダーのところで子犬が産まれて、それからこういう過程を経て……なんていう、店員の話を都さんはかなり真剣に聞いていた。

「……お兄ちゃん、帰ろう」

あまりにもあっさり、俺の手を引いて帰宅の途につく。
すっかり日は傾いていて、二人の影が長く地面に映っていた。

「いいんですか?」

都さんは俯いたまま頷いた。

「ママと、離れ離れにしちゃうんでしょ? そんなのかわいそうだもん」

母親を知らない彼女が告げる泣きそうな声に、言葉が詰まる。

「だから、みやちゃん、もういいの」

俺の手さえ振りほどいて駆け出す、小さな少女の背中に、掛ける言葉もみつからないちっぽけな自分が、酷くもどかしく思えてならなかった。

Fin.