苺祭的遊戯(ショートストーリー集)

「ねぇ、彼氏、なんて名前?」

切り終わった髪をブローしながら、美容師さんが聞いてくる。

「キノサキノブヒコ」

「キノサキくんっ。
 彼女さん、仕上がり具合はどうかしら?」

えーっと。
狭いとはいえ店内中の視線をかっさらわせるのは、いかがなものかと思いますが。

ヒコはその視線に怯むことなく、むしろ楽しむようにゆったりと歩いてくる。
その口元の笑みに悪意を感じるっつーの。

「もうちょっと明るくしても良かったのに」

いやいやいや、今までずっと黒髪の私にとってはマロンブラウンでも明るく見えます。十分に。

「じゃあ、ハイライト入れちゃおうか?」

……そこの店長。
  客の意思を尊重しろーっ。
  好みの男に振り回されるなーっ

「そうだね」

ゆっくりと思考しているふりをする、ヒコとちらりと目が合った。
焦っている私を見る目は、とても楽しそう。

サイテー。

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